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  • 一寸法師いっすんぼうし4:おにしま

    姫君ひめぎみ、あさましきことにおぼしめして、かくていかたへもくべきならねど、難波なにわなにはうらかばやとて、鳥羽とばよりふねたま(も)たま折節おりふしをりふし風荒かぜあらくして、きょうがるしまへぞけにける。ふねよりがりれば、人住ひとすむともえざりけり。かうに風悪かぜわろきて、かのしまへぞげける。とやせんかくやせんとおもけれども、かもなく、ふねよりがり、一寸法師いっすんぼうしいっすんぼふしはここかしことめぐれば、いくともなく、おに二人ふたりきたりて、一人ひとり打出うちで小槌こづちち、いま一人ひとりもうまううは、「みて、あの女房にようぼうにょうばうそうらさうらん」ともうまうす。くちよりそうらさうらば、うちよりでにけり。おにもうまううは、「これは曲者くせものかな。くちをふさげば、よりる」。一寸法師いっすんぼうしいっすんぼふしは、おにまれてはよりでてびありきければ、おにもおののきて、「これはただものならず。ただ地獄じごくぢごくらんこそたれ。ただげよ」とままに、打出うちで小槌こづちつえつゑしもとなにいたるまでうちてて、極楽浄土ごくらくじょうどごくらくじゃうど戌亥いぬいいぬゐの、いかにもくらところへ、げにけり。

    さて、一寸法師いっすんぼうしいっすんぼふしは、これをて、ま打出うちで小槌こづち濫妨らんぼうらんばうし、「われわれがせいおおおほきになれ」とぞ、どうどそうらさうらば、ほどなくせいおおおほきになり、さて、このほどつかれにのぞみたることなれば、まめしいだし、いかにもうまうなるめし、いくともなくでにけり。不思議ふしぎなるしあせとなりにけり。

    本文ほんぶん説明せつめい

    1: 姫君ひめぎみあさましきことおぼしめして、
    • ひめぎみ姫君ひめ貴人きじんむすめきみ敬称けいしょう
    • あさましなげかわしい。なさけない。
    • 格助資格しかく…で。…として。
    • おぼしめす思し召すおもいになる。
    姫君ひめぎみは、なげかわしいことだとおおもいになって、 現代語訳を表示
    2: かくてかたへもべきなら
    • かくて斯くてこうして。このままで。
    • かた何方どちら。どこ。
    • べし助動可能かのう…ことができる。…ことができるだろう。
    • なり助動断定だんてい…だ。…である。
    • 助動打消うちけし…ない。
    • 接助逆接ぎゃくせつ確定かくてい条件じょうけん…けれども。…のに。
    こうしてどちらへもくことができるわけでもないけれども、 現代語訳を表示
    3: 難波なにわなにはうらばやとて
    • なに難波地名ちめい現在げんざい大阪市おおさかし一帯いったい
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • うら海岸かいがん海辺うみべ
    • ばや終助…う。…よう。…つもりだ。
    • とて格助…とって。…とおもって。
    難波なにわ海辺うみべこうとおもって、 現代語訳を表示
    4: 鳥羽とばよりふねたま(も)たま
    • とば鳥羽現在げんざい京都市きょうとし伏見区ふしみく地名ちめい
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • 船着ふなつみなと
    • より格助空間的くうかんてき起点きてん…から。
    • 格助対象たいしょう…に。…にたいして。
    • 〜たまふま(も)う〜給ふ補動~なさる。お~になる。
    鳥羽とば船着ふなつからふねにおりになる。 現代語訳を表示
    5: 折節おりふしをりふし風荒かぜあらしてきょうがるしまける
    • りふし折節ちょうどそのとき
    • して接助状態じょうたい…で。…の状態じょうたいで。
    • きょうがるしま興がる島風変ふうがわりなしまきょうがる」はラぎょう四段よだん動詞どうし連体形れんたいけい
    • 係助強意きょうい
    • 助動完了かんりょう…た。…てしまった。…てしまう。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    ちょうどそのときかぜあらくて、風変ふうがわりなしまに(ふねを)けてしまった。 現代語訳を表示
    6: ふねよりがり人住ひとすむともざりけり
    • より格助空間的くうかんてき起点きてん…から。
    • みる見るる。
    • 接助偶然ぐうぜん条件じょうけん…と。…ところ。
    • みゆ見ゆえる。
    • 助動打消うちけし…ない。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    ふねからがってみると、ひとんでいるともえなかった。 現代語訳を表示
    7: うにかぜわるきて、かのしまける このようにかぜわるいて、そのしまふねげてしまったのだった。 現代語訳を表示 8: かく
    • そのように。あのように。
    • 係助疑問ぎもん…か。…だろうか。
    • …する。
    • む(ん)助動意志いし…う。…よう。…つもりだ。
    • かく斯くこのように。
    • 係助疑問ぎもん…か。…だろうか。
    • …する。
    • む(ん)助動意志いし…う。…よう。…つもりだ。
    ああしようかこうしようかと 現代語訳を表示
    9: おもけれどもなくふねよりがり、
    • おもらふら(ろ)う思ひ煩ふおもなやむ。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    • ども接助逆接ぎゃくせつ確定かくてい条件じょうけん…けれども。…のに。
    • 甲斐ききめ。効果こうか
    • なし…ない。存在そんざいしない。
    • より格助空間的くうかんてき起点きてん…から。
    おもなやんだが、(なやんでも)むだで、ふねからがり、 現代語訳を表示
    10: 一寸法師いっすんぼうしいっすんぼふしはここかしこめぐれ
    • いっすんぼ一寸法師この物語ものがたり主人公しゅじんこう身長しんちょう一寸いっすんやく3㎝)しかないので、このようにばれている。
    • かしこ彼処あそこ。そこ。
    • みめぐる見廻るまわる。
    • 接助偶然ぐうぜん条件じょうけん…と。…ところ。
    一寸法師いっすんぼうしはあちらこちらまわると、 現代語訳を表示
    11: ともなくおに二人ふたりきたて、
    • 何処どこ。どちら。
    • 〜なし補形~ない
    • おにあたまつのがある想像そうぞうじょう怪物かいぶつ
    • きたる来るやってくる。到来とうらいする。
    どこからともなく、おに二人ふたりやってきて、 現代語訳を表示
    12: 一人ひとり打出うちで小槌こづちち、いま一人ひとりもうまうは、
    • うちでのこづち打出の小槌るとのぞみのものてくるちいさなつち
    • 格助対象たいしょう…を。
    • いまさらに。もう。
    • 格助主格しゅかく…が。
    • うす申すもうします。
    • 内容ないよう
    一人ひとり打出うちで小槌こづちち、もう一人ひとりもうしますことには、 現代語訳を表示
    13: みて、あの女房にようぼうにょうばうそうらさうら」ともうまう 「(一寸法師いっすんぼうしを)んで、あの女性じょせいうばりましょう」ともうします。 現代語訳を表示 14: くちよりそうらさうらうちよりけり
    • より格助空間的くうかんてき起点きてん…から。
    • らふら(ろ)う〜候ふ補動~です。~ます。
    • 接助偶然ぐうぜん条件じょうけん…と。…ところ。
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • うちなか内部ないぶ
    • より格助空間的くうかんてき起点きてん…から。
    • いづ出づる。あらわれる。
    • 助動完了かんりょう…た。…てしまった。…てしまう。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    くちからみますと、(一寸法師いっすんぼうしは)なかからてきてしまった。 現代語訳を表示
    15: おにもうまうは、「これは曲者くせものかなくちふさげより」。
    • おにあたまつのがある想像そうぞうじょう怪物かいぶつ
    • うす申すもうします。
    • 内容ないよう
    • くせもの曲者あやしいもの
    • かな終助詠嘆えいたん…だなあ。…ことだよ。
    • 格助対象たいしょう…を。
    • 接助恒常こうじょう条件じょうけん…と。…ときはいつも。
    • より格助空間的くうかんてき起点きてん…から。
    • 出づる。あらわれる。
    おにうことには、「これはあやしいやつだよ。くちをふさぐと、からてくる」(とう)。 現代語訳を表示
    16: 一寸法師いっすんぼうしいっすんぼふしは、おにてはよりありきけれ
    • いっすんぼ一寸法師この物語ものがたり主人公しゅじんこう身長しんちょう一寸いっすんやく3㎝)しかないので、このようにばれている。
    • おにあたまつのがある想像そうぞうじょう怪物かいぶつ
    • 格助受身うけみ動作どうさしゅ…に。…によって。
    • 助動受身うけみ…れる。
    • より格助空間的くうかんてき起点きてん…から。
    • 出づる。あらわれる。
    • 〜ありく補動あちらこちら~てまわる。~あるく。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    • 接助原因げんいん理由りゆう…ので。…から。
    一寸法師いっすんぼうしは、おにまれるたびにからびまわったので、 現代語訳を表示
    17: おにもおののきて、「これはただものなら
    • おにあたまつのがある想像そうぞうじょう怪物かいぶつ
    • ののく怖じ戦くこわがってふるえる。
    • ただもの徒者・只者普通ふつう人間にんげん
    • なり助動断定だんてい…だ。…である。
    • 助動打消うちけし…ない。
    おにこわがってふるえて、「これは普通ふつう人間にんげんではない。 現代語訳を表示
    18: ただ地獄じごくぢごくらんこそたれただげよ」とままに
    • ただちょうど。まさに。
    • ごく地獄悪業あくぎょうをなしたもの死後しごちてけるところ
    • 格助場所ばしょ…に。…で。
    • らん争乱そうらん騒動そうどう
    • こそ係助強意きょうい…こそ。
    • いでく出で来発生はっせいする。こる。
    • たり助動完了かんりょう…た。…てしまった。
    • ただまようことなく。ともかく。
    • ままに儘に連語…と同時どうじに。…やいなや。
    きっと地獄じごく騒動そうどうこったのだ。ともかくげろ」とうやいなや、 現代語訳を表示
    19: 打出うちで小槌こづちつえつゑしもとなにいたるまでうちてて、
    • うちでのこづち打出の小槌るとのぞみのものてくるちいさなつち
    • 罪人ざいにんぼう
    • しもと罪人ざいにんつむち。細枝ほそえだつくる。
    • 格助到達点とうたつてん…に。
    • うち〜接頭すっかり。おもって。
    打出うちで小槌こづちつえしもとなどなにからなにまでてて、 現代語訳を表示
    20: 極楽浄土ごくらくじょうどごくらくじゃうど戌亥いぬいいぬゐいかにもくらところへ、けり
    • ごくらくじうど極楽浄土善業ぜんごうをなしたもの死後しご平和へいわ安楽あんらくところ阿弥陀仏あみだぶつ居所きょしょ
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • いぬ戌亥北西ほくせい
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • いかにも如何にもきわめて。はなはだしく。
    • 漸うやっと。かろうじて。
    • 助動完了かんりょう…た。…てしまった。…てしまう。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    極楽浄土ごくらくじょうど北西ほくせいの、たいそうくらところへ、やっとのことでげてってしまった。 現代語訳を表示
    21: さて一寸法師いっすんぼうしいっすんぼふしは、これて、ま打出うちで小槌こづち濫妨らんぼうらんばうし、
    • さてさて。
    • いっすんぼ一寸法師この物語ものがたり主人公しゅじんこう身長しんちょう一寸いっすんやく3㎝)しかないので、このようにばれている。
    • 格助対象たいしょう…を。
    • みる見るる。
    • うちでのこづち打出の小槌るとのぞみのものてくるちいさなつち
    • 格助対象たいしょう…を。
    • らんうす濫妨すうばる。
    さて、一寸法師いっすんぼうしはこれをて、まず打出うちで小槌こづちうばり、 現代語訳を表示
    22: 「われわれせいおおおほきになれ」と、どうどそうらさうら
    • われわれ我々わたし一般いっぱんには複数ふくすうし、「わたしたち」という意味いみだが、ここでは単数たんすう
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • せい背丈せたけ身長しんちょう
    • 間助びかけ…よ。
    • きなり大きなり形動おおきい。はなはだしい。
    • なる成る変化へんかする。なる。
    • 係助強意きょうい
    • どうどどんと。どしんと。おもものけるさま。
    • らふら(ろ)う〜候ふ補動~です。~ます。
    • 接助偶然ぐうぜん条件じょうけん…と。…ところ。
    わたし背丈せたけおおきくなれ」と(って)、どんとちますと、 現代語訳を表示
    23: ほどなくせいおおおほきになり
    • ほどなし程無しもない。すぐだ。
    • せい背丈せたけ身長しんちょう
    • きなり大きなりおおきい。はなはだしい。
    • なる成る変化へんかする。なる。
    まもなく背丈せたけおおきくなり、 現代語訳を表示
    24: さて、このほどつかのぞたることなれ、まめしいだし、
    • さてそして。それで。
    • ほどおり時分じぶん
    • 格助対象たいしょう…に。…にたいして。
    • のぞむ臨む直面ちょくめんする。
    • たり助動存続そんぞく…ている。…てある。
    • なり助動断定だんてい…だ。…である。
    • 接助原因げんいん理由りゆう…ので。…から。
    • 格助対象たいしょう…を。
    そして、このところつかれに直面ちょくめんしていることであるので、まずはごはんし、 現代語訳を表示
    25: いかにもうまうなるめしともなくけり
    • いかにも如何にもきわめて。はなはだしく。
    • 何処どこ。どちら。
    • 〜なし補形~ない。
    • 出づる。あらわれる。
    • 助動完了かんりょう…た。…てしまった。…てしまう。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    とても美味おいしそうなごはんがどこからともなくあらわれたのだった。 現代語訳を表示
    26: 不思議ふしぎなるしあなりけり
    • ふしぎなり不思議なり形動おもいがけない。予測よそくがつかない。
    • しあ仕合はせなりゆき。こと次第しだい
    • なる成る変化へんかする。なる。
    • 助動完了かんりょう…た。…てしまった。…てしまう。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    (このように)おもいがけないなりゆきとなったのであった。 現代語訳を表示

    現代語訳げんだいごやく

    姫君ひめぎみは、なげかわしいことだとおおもいになって、こうしてどちらへもくことができるわけでもないけれども、難波なにわ海辺うみべこうとおもって、鳥羽とば船着ふなつからふねにおりになる。ちょうどそのときかぜあらくて、風変ふうがわりなしまに(ふねを)けてしまった。ふねからがってみると、ひとんでいるともえなかった。このようにかぜわるいて、そのしまふねげてしまったのだった。ああしようかこうしようかとおもなやんだが、(なやんでも)むだで、ふねからがり、一寸法師いっすんぼうしはあちらこちらまわると、どこからともなく、おに二人ふたりやってきて、一人ひとり打出うちで小槌こづちち、もう一人ひとりもうしますことには、「(一寸法師いっすんぼうしを)んで、あの女性じょせいうばりましょう」ともうします。くちからみますと、(一寸法師いっすんぼうしは)なかからてきてしまった。おにうことには、「これはあやしいやつだよ。くちをふさぐと、からてくる」(とう)。一寸法師いっすんぼうしは、おにまれるたびにからびまわったので、おにこわがってふるえて、「これは普通ふつう人間にんげんではない。きっと地獄じごく騒動そうどうこったのだ。ともかくげろ」とうやいなや、打出うちで小槌こづちつえしもとなどなにからなにまでてて、極楽浄土ごくらくじょうど北西ほくせいの、たいそうくらところへ、やっとのことでげてってしまった。

    さて、一寸法師いっすんぼうしはこれをて、まず打出うちで小槌こづちうばり、「わたし背丈せたけおおきくなれ」と(って)、どんとちますと、まもなく背丈せたけおおきくなり、さて、このところつかれに直面ちょくめんしていることであるので、まずはごはんし、とても美味おいしそうなごはんがどこからともなくあらわれたのだった。(このように)おもいがけないなりゆきとなったのであった。