現代語訳
姫君は、嘆かわしいことだとお思いになって、こうしてどちらへも行くことができるわけでもないけれども、難波の海辺へ行こうと思って、鳥羽の船着き場から舟にお乗りになる。ちょうどその時、風が荒くて、風変わりな島に(舟を)着けてしまった。舟から上がってみると、人が住んでいるとも見えなかった。このように風が悪く吹いて、その島へ舟を吹き上げてしまったのだった。ああしようかこうしようかと思い悩んだが、(悩んでも)むだで、舟から上がり、一寸法師はあちらこちら見て回ると、どこからともなく、鬼が二人やってきて、一人は打出の小槌を持ち、もう一人が申しますことには、「(一寸法師を)飲み込んで、あの女性を奪い取りましょう」と申します。口から飲みますと、(一寸法師は)目の中から出てきてしまった。鬼が言うことには、「これは怪しい奴だよ。口をふさぐと、目から出てくる」(と言う)。一寸法師は、鬼に飲まれるたびに目から出て跳びまわったので、鬼も怖がって震えて、「これは普通の人間ではない。きっと地獄に騒動が起こったのだ。ともかく逃げろ」と言うやいなや、打出の小槌、杖、笞など何から何まで投げ捨てて、極楽浄土の北西の、たいそう暗い所へ、やっとのことで逃げて行ってしまった。
さて、一寸法師はこれを見て、まず打出の小槌を奪い取り、「私の背丈よ大きくなれ」と(言って)、どんと打ちますと、まもなく背丈が大きくなり、さて、このところ疲れに直面していることであるので、まずはご飯を打ち出し、とても美味しそうなご飯がどこからともなく現れたのだった。(このように)思いがけないなりゆきとなったのであった。