むかし、男ありけり。
昔、男がいた。「狩の使1:おぼろ月(伊勢物語)」:1
女のねや近くありければ、
女の寝所近くに泊まっていたので、「狩の使1:おぼろ月(伊勢物語)」:13
子一つより丑三つまであるに、
子一つから丑三つまで時がたったが、「狩の使1:おぼろ月(伊勢物語)」:20
狩の使ありと聞きて、夜ひと夜、酒飲みしければ、
狩の使が滞在していると聞いて、一晩中酒宴を催したので、「狩の使2:夢うつつ(伊勢物語)」:14
飽かずやありけむ、二十日の夜の月出づるまでぞありける。
名残惜しかったのだろうか、二十日の夜の月が出るまで宴会は続いた。「二十日の夜の月(土佐日記)」:7
今は上中下の人も、かうやうに別れ惜しみ、喜びもあり、悲しびもある時には詠む」
今は身分が高い人も中ぐらいの人も低い人も、このように別れを惜しんだり、また喜びがあったり、悲しみがあったりする時には詠みます」「二十日の夜の月(土佐日記)」:11
これも今は昔、比叡の山に児ありけり。
これも今となっては昔のことであるが、比叡山の延暦寺に稚児がいた。「ちごの空寝(宇治拾遺物語)」:1
なべて心柔かに情ある故に、
(都の人は)総じて柔和で優しい気持ちがあるために、「吾妻人と都人(徒然草)」:9
乏しく叶はぬ人のみあれば、
経済力がなくて思うようにならない人ばかりいるので、「吾妻人と都人(徒然草)」:13
かく柔ぎたる所ありて、
このように柔和なところがあって、「吾妻人と都人(徒然草)」:25
その益もあるにこそと覚え侍りし。
そのおかげもあるのだろうと思われましたことです。「吾妻人と都人(徒然草)」:26
三位殿に申すべき事あッて、忠度が帰り参ッて候ふ。
三位殿に申し上げなければならないことがあって、忠度が帰って参ったのでございます。「忠度都落1:落人(平家物語)」:9
俊成卿、「さる事あるらん。其人ならば苦しかるまじ。
俊成卿は「それ相応のわけがあるのだろう。その人ならばさしつかえないだろう。「忠度都落1:落人(平家物語)」:11
入れ申せ」とて、門をあけて対面あり。
中にお通ししなさい」とおっしゃって、門を開けて対面がある。「忠度都落1:落人(平家物語)」:12
撰集のあるべき由承り候ひしかば、
(勅撰和歌集の)撰集がある予定だということを伺いましたので、「忠度都落1:落人(平家物語)」:21
御疑ひあるべからず。
(その私の決意を)お疑いになってはいけません。「忠度都落2:故郷の花(平家物語)」:4
さりぬべき歌いくらもありけれども、
(勅撰集に選ばれるのに)ふさわしい歌はいくつもあったが、「忠度都落2:故郷の花(平家物語)」:22
さりながら、生れおちてより後、背一寸ありぬれば、
しかしながら、(その子は)生まれた後、身長が一寸しかなかったので、「一寸法師1:旅立ち」:8
ありつる足駄の下にて、「もの申さん」と申せば、
そこにあった足駄の下で、「ごめんください」と申し上げたところ、「一寸法師2:上京」:9
とにかくにもはからひ候へ、とありける」とて、
どのようにでも取りはからいなさい、と(宰相殿のご指示が)あった」と言って、「一寸法師3:姫君」:20
その後、金銀打ち出し、姫君ともに都へ上り、五条あたりへ宿をとり、十日ばかりありけるが、
その後、(打出の小槌で)金銀を打ち出し、姫君とともに都へ上り、五条あたりに宿を取って十日ほど滞在したが、「一寸法師5:帰京」:1
これに過ぎたることはよもあらじとぞ申し侍りける。
これ以上のことはまさかないだろうと、(世の人々は)申しましたそうです。「一寸法師5:帰京」:21
この書の最初に仰伏全象の図あり。
この本の最初に人体の前面と背面の全体図がある。「翻訳苦心談1:読みはじめ(蘭学事始)」:4
少しづつは記憶せし語ありても、前後一向にわからぬことばかりなり。
少しずつは記憶していた単語があっても、まったくわからないことばかりである。「翻訳苦心談1:読みはじめ(蘭学事始)」:13
たとへば、「眉(ウエインブラーウ)といふものは目の上に生じたる毛なり」とあるやうなる一句も、
たとえば、「眉(ウエインブラーウ)というものは目の上に生えている毛である」と書いてあるような一句も、「翻訳苦心談1:読みはじめ(蘭学事始)」:14
「フルヘッヘンドせしものなり」とあるに至りしに、
「フルヘッヘンドしたものである」とある箇所に至ったが、「翻訳苦心談2:連城の玉(蘭学事始)」:2
簡略なる一小冊ありしを見合せたるに、
簡略な一冊の小さい本があったのを参照したところ、「翻訳苦心談2:連城の玉(蘭学事始)」:8
鼻は面中に在りて堆起せるものなれば、
鼻は顔の中に存在して盛り上がっているものであるから、「翻訳苦心談2:連城の玉(蘭学事始)」:17
忠度のありし有様、言ひおきし言の葉、
忠度の生前の有様、言い遺した言葉を、「忠度都落2:故郷の花(平家物語)」:19
明けはなれてしばしあるに、女のもとより、詞はなくて、
すっかり夜が明けてからしばらくたった頃に、女のところから、(歌以外の)言葉はなくて、「狩の使2:夢うつつ(伊勢物語)」:4