とて

格助詞かくじょし

接続引用いんよう句くに付つく。

1: 〈引用いんよう〉…と言いって。…と思おもって。

とて、明あくれば尾張おわりをはりの国くにへこえにけり。

と詠よんで、夜よるが明あけたので尾張おわりの国くにに向むけて国境くにざかいを越こえて行いったのだった。「狩かりの使つかい２：夢ゆめうつつ（伊勢いせ物語ものがたり）」:26
とて、詠よめりける歌うた、

と言いって、詠よんだ歌うたは、「二十日はつかの夜よの月つき（土佐日記とさにっき）」:12
うれしとは思おもへえども、ただ一度いちどにいらへえんも、待まちけるかともぞ思おもふうとて、

うれしいとは思おもうけれども、たった一度いちどで返事へんじをするのも、待まっていたかと（僧そうたちが）思おもうといけないと思おもって、「ちごの空寝そらね（宇治拾遺物語うじしゅういものがたり）」:10
「落人おちゅうとおちうと帰かえかへりきたり」とて、その内うちさわぎあへえり。

「落人おちゅうどが帰かえって来きた」と言いって、（屋敷やしきの）中なかで（人々ひとびとが）騒さわぎ合あっている。「忠度ただのりの都落みやこおち１：落人おちゅうど（平家物語へいけものがたり）」:6
入いれ申もうまうせ」とて、門かどをあけて対面たいめんあり。

中なかにお通とおししなさい」とおっしゃって、門もんを開あけて対面たいめんがある。「忠度ただのりの都落みやこおち１：落人おちゅうど（平家物語へいけものがたり）」:12
遠とおとほき御おんまもりでこそ候そうらさうらはわんずれ」とて、

きっと（それは）遠とおい（あの世よからのあなた様さまにとっての）お守まもりでございましょう」と言いって、「忠度ただのりの都落みやこおち１：落人おちゅうど（平家物語へいけものがたり）」:31
今いまはとてうッたたれける時とき、是これをとッてもたれたりしが、

「今いまは（都落みやこおちをしよう）」ということで出発しゅっぱつなさった時とき、これを取とってお持もちになっていたのだが、「忠度ただのりの都落みやこおち１：落人おちゅうど（平家物語へいけものがたり）」:34
浮世うきよに思おもひいおく事こと候そうらさうらはわず。さらば暇いとま申もうまうして」とて、

この俗世ぞくせに思おもい残のこすことはございません。それでは、お別わかれを申もうし上あげて」と言いって、「忠度ただのりの都落みやこおち２：故郷こきょうの花はな（平家物語へいけものがたり）」:10
自然しぜん舟ふねなくてはいかがあるべきとて、

もし舟ふねがなかったらどうだろうかと思おもって、「一寸法師いっすんぼうし１：旅立たびだち」:25
一寸法師いっすんぼうしいっすんぼふし、かくて人ひとにも踏ふみ殺ころされんとて、

一寸法師いっすんぼうしは、こうして（いては）人ひとに踏ふみ殺ころされるだろうと思おもって、「一寸法師いっすんぼうし２：上京じょうきょう」:8
「げにもおもしろき者ものなり」とて、御笑おんわらひいなされけり。

「まことにおもしろい奴やつだ」とおっしゃって、お笑わらいになった。「一寸法師いっすんぼうし２：上京じょうきょう」:17
いかにも失うしな(の)うしなふうべし」とて、一寸法師いっすんぼうしいっすんぼふしに仰おおおほせつけらるる。

どのようにでも追おい出だしなさい」と言いって、一寸法師いっすんぼうしに命令めいれいなさった。「一寸法師いっすんぼうし３：姫君ひめぎみ」:18
とにかくにもはからひい候そうらさうらへえ、とありける」とて、

どのようにでも取とりはからいなさい、と（宰相さいしょう殿どののご指示しじが）あった」と言いって、「一寸法師いっすんぼうし３：姫君ひめぎみ」:20
難波なにわなにはの浦うらへ行いかばやとて、

難波なにわの海辺うみべへ行いこうと思おもって、「一寸法師いっすんぼうし４：鬼おにが島しま」:3

2: 〈原因げんいん・理由りゆう〉…というので。

故郷ふるさとの人ひとの来きたりて物語ものがたりすとて、

（上人しょうにんと）同郷どうきょうの（東国とうごくの）人ひとが訪たずねて来きて話はなしをするということで、「吾妻人あずまびとと都人みやこびと（徒然草つれづれぐさ）」:3

3: 〈目的もくてき〉…という目的もくてきで。

夕ゆうゆふ日ひのさして、山やまの端はいと近ちこちかうなりたるに、烏からすの寝ねどころへ行いくとて、三みつ四よつ、二ふたつ三みつなど、飛とびいそぐさへえあはわれなり。

夕日ゆうひが照てって、山やまに沈しずもうとしている頃ころに、烏からすが寝ねどころへ行いこうとして、三羽さんわ四羽よんわ、二羽にわ三羽さんわなど、急いそいで飛とんでいくのさえ情趣じょうしゅが感かんじられる。「春はるはあけぼの（枕草子まくらのそうし）」:9