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    吾妻人あずまびとと都人みやこびと（徒然草つれづれぐさ）

    悲田院ひでんいんひでんゐんの尭蓮上人ぎょうれんしょうにんげうれんしゃうにんは、俗姓ぞくしょうぞくしゃうは三浦みうらの某なにがしとかや、双そうさうなき武者むしゃなり。故郷ふるさとの人ひとの来きたりて物語ものがたりすとて、「吾妻人あずまびとあづまびとこそ言いひいつることは頼たのまるれ、都みやこの人ひとは言受ことうけのみよくて実まことなし」と言いひいしを、聖ひじり、「それはさこそおぼすらめども、己おのれは都みやこに久ひさしく住すみて馴なれて見み侍はべるに、人ひとの心こころ劣おとれりとは思おもひい侍はべらず。なべて心こころ柔やわらやはらかに情なさけある故ゆえゆゑに、人ひとの言いふうほどの事ことけやけく否いなび難がたくて、万よろずよろづえ言いひい放はなたず、心弱こころよわく言受ことうけしつ。偽いつわいつはりせんとは思おもはわねど、乏ともしく叶かなはわぬ人ひとのみあれば、自おのずかおのづから本意ほい通とおとほらぬ事こと多おおおほかるべし。吾妻人あずまびとあづまびとは、我わが方かたなれど、げには心こころの色いろなく情なさけおくれ、偏ひとえひとへにすくよかなるものなれば、初はじめより否いなと言いひいて止やみぬ。賑にぎはわひい、豊ゆたかなれば、人ひとには頼たのまるるぞかし」とことわられ侍はべりしこそ、この聖ひじり声こえこゑうち歪ゆがみ、荒々あらあらしくて、聖教しょうぎょうしゃうげうの細こまやかなる理ことわりいと弁わきまへえずもやと思おもひいしに、この一言ひとことの後のち、心こころにくくなりて、多おおおほかる中なかに寺てらをも住持じゅうじぢゅうぢせらるるは、かく柔やわらやはらぎたる所ところありて、その益やくもあるにこそと覚おぼえ侍はべりし。

    朗読ろうどく

    本文ほんぶんの説明せつめい

    1: 悲田院ひでんいんひでんゐんの尭蓮上人ぎょうれんしょうにんげうれんしゃうにんは、俗姓ぞくしょうぞくしゃうは三浦みうらの某なにがしとかや、
    • ひでんゐいん悲田院名仏教ぶっきょうの慈悲じひの思想しそうにもとづき、孤児こじ、病人びょうにん、貧窮者ひんきゅうしゃなどを救済きゅうさいする施設しせつ。
    • の格助連体れんたい修飾しゅうしょく格かく…の。
    • げぎょうれんしゃょうにん尭蓮上人名尭ぎょう蓮れんは僧そうの名な。上人しょうにんは僧そうへの敬称けいしょう。
    • ぞくしゃょう俗姓名出家しゅっけして僧侶そうりょになる前まえの名字みょうじ。
    • の格助連体れんたい修飾しゅうしょく格かく…の。
    • なにがし某名何なんとか。だれそれ。どこそこ。
    • とかや連語…とかいう。格助詞かくじょし「と」＋係助詞けいじょし「か」＋間投かんとう助詞じょし「や」。伝聞でんぶんの意いを表あらわす。
     悲田院ひでんいんの尭ぎょう蓮れん上人しょうにんは、俗人ぞくじんの時ときの姓せいは三浦みうらのだれそれとかいう（人ひとで）、 現代語訳を表示     2: 双そうさうなき武者むしゃなり。
    • さそうなし双無し形この上うえない。並ならぶ者ものがない。
    • むしゃ武者名武士ぶし。武人ぶじん。
    • なり助動断定だんてい…だ。…である。
     並ならぶ者もののないほどの武人ぶじんである。 現代語訳を表示     3: 故郷ふるさとの人ひとの来きたりて物語ものがたりすとて、
    • ふるさと故郷名生うまれ育そだった土地とち。生うまれ故郷こきょう。
    • の格助連体れんたい修飾しゅうしょく格かく…の。
    • の格助主格しゅかく…が。
    • きたる来る動やってくる。到来とうらいする。
    • ものがたりす物語す動話はなしをする。
    • とて格助原因げんいん・理由りゆう…というので。
     （上人しょうにんと）同郷どうきょうの（東国とうごくの）人ひとが訪たずねて来きて話はなしをするということで、 現代語訳を表示     4: 「吾妻人あずまびとあづまびとこそ言いひいつることは頼たのまるれ、
    • あづずまびと吾妻人・東人名東国とうごくの人ひと。東国とうごくは都みやこから見みて東方とうほうの地域ちいき、特とくに現在げんざいの関東かんとう地方ちほうを指さす。「あづまうど」とも言いう。
    • こそ係助強意きょうい…こそ。
    • つ助動完了かんりょう…た。…てしまった。…てしまう。
    • たのむ頼む動信用しんようする。信頼しんらいする。
    • る助動可能かのう…ことができる。
     「東国とうごくの人ひとこそ、言いったことは信頼しんらいできるが、 現代語訳を表示     5: 都みやこの人ひとは言受ことうけのみよくて実まことなし」と言いひいしを、
    • みやこ都名京都きょうと。
    • の格助連体れんたい修飾しゅうしょく格かく…の。
    • ことうけ言承け名返事へんじ。受うけ答こたえ。
    • のみ副助限定げんてい…だけ。…ばかり。
    • よし良し・好し形上手じょうずだ。巧たくみだ。
    • まこと真・実・誠名誠意せいい。誠実せいじつさ。まごころ。
    • なし無し形ない。存在そんざいしない。
    • き助動過去かこ…た。
    • を接助偶然ぐうぜん条件じょうけん…が。…と。…ところ。
     都みやこの人ひとは、返事へんじばかりよくて誠実せいじつさがない」と言いったところ、 現代語訳を表示     6: 聖ひじり、「それはさこそおぼすらめども、
    • ひじり聖名徳とくの高たかい僧そう。ここでは尭ぎょう蓮れん上人しょうにんを指さす。
    • それ名あなた。ここの「それ」は対称たいしょう。
    • さ然副そう。そのように。そのとおり。
    • こそ係助強意きょうい…こそ。
    • おぼす思す動お思おもいになる。
    • らむ（らん）助動現在げんざい推量すいりょう今いまごろ…ているだろう。
    • ども接助逆接ぎゃくせつ確定かくてい条件じょうけん…けれども。…のに。
     上人しょうにんは、「あなたはそのようにお思おもいになっているでしょうが、 現代語訳を表示     7: 己おのれは都みやこに久ひさしく住すみて馴なれて見み侍はべるに、
    • おのれ己名私わたし。
    • みやこ都名京都きょうと。
    • に格助場所ばしょ…に。…で。
    • ひさし久し形長ながい時間じかんがたっている。
    • なる馴る動慣なれる。
    • みる見る動見みる。
    • 〜はべり〜侍り補動〜です。〜ます。
    • に接助偶然ぐうぜん条件じょうけん…が。…と。…ところ。
     私わたしは都みやこに長ながい間あいだ住すんで、住すみ慣なれて見みていますと、 現代語訳を表示     8: 人ひとの心こころ劣おとれりとは思おもひい侍はべらず。
    • の格助連体れんたい修飾しゅうしょく格かく…の。
    • こころ心名心こころ。精神せいしん。
    • おとる劣る動他ほかに比くらべて程度ていどが低ひくい。
    • り助動存続そんぞく…ている。…てある。
    • 〜はべり〜侍り補動〜です。〜ます。
    • ず助動打消うちけし…ない。
     人ひとの心こころが劣おとっているとは思おもいません。 現代語訳を表示     9: なべて心こころ柔やわらやはらかに情なさけある故ゆえゆゑに、
    • なべて並べて副一般いっぱんに。総そうじて。
    • こころ心名心こころ。精神せいしん。
    • やはわらかなり柔らかなり形動柔和にゅうわだ。穏おだやかだ。
    • なさけ情け名人情にんじょう。思おもいやり。
    • あり在り・有り動ある。いる。
    • ゆゑえ故名原因げんいん・理由りゆう
    • に格助原因げんいん・理由りゆう…によって。
     （都みやこの人ひとは）総そうじて柔和にゅうわで優やさしい気持きもちがあるために、 現代語訳を表示     10: 人ひとの言いふうほどの事ことけやけく否いなび難がたくて、
    • の格助主格しゅかく…が。
    • ほど程名程度ていど。度合どあい。
    • の格助連体れんたい修飾しゅうしょく格かく…の。
    • けやけし形はっきりしている。露骨ろこつだ。
    • いなぶ否ぶ動断ことわる。承知しょうちしない。感動詞かんどうし「いな」を動詞どうし化かした語ご。
     人ひとが（頼たのんで）言いうほどのことをきっぱりと断ことわりにくくて、 現代語訳を表示     11: 万よろずよろづえ言いひい放はなたず、心弱こころよわく言受ことうけしつ。
    • よろづず万副すべて。万事ばんじにつけて。
    • え副とうてい。とても。どうしても。
    • いひいはなつ言ひ放つ動遠慮えんりょなく言いい切きる。きっぱりと言いう。
    • ず助動打消うちけし…ない。
    • こころよわし心弱し形気きが弱よわい。
    • ことうけす言承けす動承諾しょうだくする。
    • つ助動完了かんりょう…た。…てしまった。…てしまう。
     万事ばんじにつけて遠慮えんりょなく言いい切きることがどうしてもできなくて、気弱きよわに承諾しょうだくしてしまう。 現代語訳を表示     12: 偽いつわいつはりせんとは思おもはわねど、
    • いつはわり偽り名嘘うそ。虚言きょげん。
    • す動する。
    • む（ん）助動意志いし…う。…よう。…つもりだ。
    • ず助動打消うちけし…ない。
    • ど接助逆接ぎゃくせつ恒常こうじょう条件じょうけん…ても必かならず。
     嘘うそをつこうとは思おもわなくても、 現代語訳を表示     13: 乏ともしく叶かなはわぬ人ひとのみあれば、
    • ともし乏し形貧乏びんぼうだ。経済けいざい力りょくがない。
    • かなふな(の)う叶ふ・適ふ動思おもいどおりになる。願ねがいがかなう。
    • ず助動打消うちけし…ない。
    • のみ副助限定げんてい…だけ。…ばかり。
    • あり在り・有り動ある。いる。
    • ば接助原因げんいん・理由りゆう…ので。…から。
     経済けいざい力りょくがなくて思おもうようにならない人ひとばかりいるので、 現代語訳を表示     14: 自おのずかおのづから本意ほい通とおとほらぬ事こと多おおおほかるべし。
    • おのづずから自ら副自然しぜんと。
    • ほい本意名もとからの望のぞみ。本来ほんらいの目的もくてき。
    • ず助動打消うちけし…ない。
    • べし助動推量すいりょう…だろう。…にちがいない。
     自然しぜんと願ねがっていたとおりにならないことも多おおいのだろう。 現代語訳を表示     15: 吾妻人あずまびとあづまびとは、我わが方かたなれど、
    • あづずまびと吾妻人・東人名東国とうごくの人ひと。東国とうごくは都みやこから見みて東方とうほうの地域ちいき、特とくに現在げんざいの関東かんとう地方ちほうを指さす。「あづまうど」とも言いう。
    • わ我・吾名私わたし。
    • が格助連体れんたい修飾しゅうしょく格かく…の
    • かた方名組くみ。仲間なかま。
    • なり助動断定だんてい…だ。…である。
    • ど接助逆接ぎゃくせつ確定かくてい条件じょうけん…けれども。…のに。
     東国とうごくの人ひとは、私わたしと同郷どうきょうだが、 現代語訳を表示     16: げには心こころの色いろなく情なさけおくれ、
    • げに実に副本当ほんとうに。まったく。
    • こころ心名心こころ。精神せいしん。
    • の格助連体れんたい修飾しゅうしょく格かく…の。
    • いろ色名情なさけ。優やさしさ。
    • なし無し形ない。存在そんざいしない。
    • なさけ情名人情にんじょう。思おもいやり。
    • おくる遅る動遅おくれる。後あとになる。
     本当ほんとうのところは心こころの優やさしさがなく、人情にんじょうが乏とぼしく、 現代語訳を表示     17: 偏ひとえひとへにすくよかなるものなれば、
    • ひとへえに偏に副まったく。むやみに。
    • すくよかなり健よかなり形動飾かざりけがない。無愛想ぶあいそうだ。
    • なり助動断定だんてい…だ。…である。
    • ば接助原因げんいん・理由りゆう…ので。…から。
     まったく無愛想ぶあいそうな人々ひとびとなので、 現代語訳を表示     18: 初はじめより否いなと言いひいて止やみぬ。
    • より格助時間的じかんてき起点きてん…から。
    • いな否感いや。いいえ。
    • やむ止む動終おわる。終おわりになる。
    • ぬ助動完了かんりょう…た。…てしまった。…てしまう。
     （何なにか頼たのまれても）初はじめからいやだと言いって終おわってしまう。 現代語訳を表示     19: 賑にぎはわひい、豊ゆたかなれば、人ひとには頼たのまるるぞかし」
    • にぎはわ(お)ふう賑わふ動富とみ栄さかえる。
    • ば接助原因げんいん・理由りゆう…ので。…から。
    • に格助受身うけみの動作どうさ主しゅ…に。…によって。
    • たのむ頼む動頼たよる。あてにする。
    • る助動受身うけみ…れる。
    • ぞ係助断定だんてい…だ。…である。
    • かし終助念ねん押おし・確認かくにん…よ。…ね。
     （ただし、）富とみ栄さかえていて財ざい力りょくがあるので、人ひとには頼たよりにされるのだよ」 現代語訳を表示     20: とことわられ侍はべりしこそ、
    • ことわる理る動筋道すじみちを立たてて説明せつめいする。
    • る助動尊敬そんけい…なさる。お…になる。
    • 〜はべり〜侍り補動～です。～ます。
    • き助動過去かこ…た。
    • こそ係助強意きょうい…こそ。
     と説明せつめいなさいましたのは、 現代語訳を表示     21: この聖ひじり声こえこゑうち歪ゆがみ、荒々あらあらしくて、
    • ひじり聖名徳とくの高たかい僧そう。ここでは尭ぎょう蓮れん上人しょうにんを指さす。
    • うち〜接頭ちょっと。ふと。
    • ゆがむ歪む動形かたちがくずれる。ここでは発音はつおんに東国とうごくの方言ほうげんのなまりがあることを表あらわす。
    • あらあらし荒々し形荒あらっぽい。乱暴らんぼうな感かんじだ。
     この上人しょうにんは発音はつおんがちょっとなまっていて、荒あらっぽくて、 現代語訳を表示     22: 聖教しょうぎょうしゃうげうの細こまやかなる理ことわりいと弁わきまへえずもやと思おもひいしに、
    • しゃょうげぎょう聖教名経典きょうてんなどの仏典ぶってんに書かかれた仏ほとけの教おしえ。
    • の格助連体れんたい修飾しゅうしょく格かく
    • こまやかなり細やかなり形動詳細しょうさいだ。綿密めんみつだ。
    • ことわり理名道理どうり。筋道すじみち。理論りろん。
    • いと副たいして。それほど。
    • わきまふま(も)う弁ふ動理解りかいする。ものの道理どうりを心得こころえる。
    • ず助動打消うちけし…ない。
    • や係助疑問ぎもん…か。…だろうか。
    • き助動過去かこ…た。
    • に接助逆接ぎゃくせつ確定かくてい条件じょうけん…けれども。…のに。
     仏ほとけの教おしえの詳細しょうさいな理論りろんはあまりわかっていないのではないかと思おもっていましたが、 現代語訳を表示     23: この一言ひとことの後のち、心こころにくくなりて、
    • の格助連体れんたい修飾しゅうしょく格かく…の。
    • こころにくし心にくし形心こころをひかれる。魅力みりょくを感かんじる。
    • なる成る動変化へんかする。なる。
     この一言ひとことの後あとは、心こころがひかれるようになって、 現代語訳を表示     24: 多おおおほかる中なかに寺てらをも住持じゅうじぢゅうぢせらるるは、
    • に格助場所ばしょ…に。…で。
    • を格助対象たいしょう…を。
    • ぢじゅうぢじす住持す動寺てらを管理かんりし、仏法ぶっぽうを保持ほじする。
    • らる助動尊敬そんけい…なさる。お…になる。
     （世よの中なかに）僧侶そうりょが大勢おおぜいいる中なかでも（この上人しょうにんが）寺てらをも管理かんりなさっているのは、 現代語訳を表示     25: かく柔やわらやはらぎたる所ところありて、
    • かく副このように。
    • やはわらぐ和らぐ・柔らぐ動穏おだやかになる。柔和にゅうわになる。
    • たり助動存続そんぞく…ている。…てある。
    • あり在り・有り動ある。いる。
     このように柔和にゅうわなところがあって、 現代語訳を表示     26: その益やくもあるにこそと覚おぼえ侍はべりし。
    • やく益名効果こうか。効きき目め。
    • あり在り・有り動ある。いる。
    • なり助動断定だんてい…だ。…である。
    • こそ係助強意きょうい…こそ。
    • おぼゆ覚ゆ動自然しぜんと思おもわれる。感かんじられる。
    • 〜はべり〜侍り補動～です。～ます。
    • き助動過去かこ…た。
     そのおかげもあるのだろうと思おもわれましたことです。 現代語訳を表示

    現代語訳げんだいごやく

    悲田院ひでんいんの尭ぎょう蓮れん上人しょうにんは、俗人ぞくじんの時ときの姓せいは三浦みうらのだれそれとかいう（人ひとで）、並ならぶ者もののないほどの武人ぶじんである。（上人しょうにんと）同郷どうきょうの（東国とうごくの）人ひとが訪たずねて来きて話はなしをするということで、「東国とうごくの人ひとこそ、言いったことは信頼しんらいできるが、都みやこの人ひとは、返事へんじばかりよくて誠実せいじつさがない」と言いったところ、上人しょうにんは、「あなたはそのようにお思おもいになっているでしょうが、私わたしは都みやこに長ながい間あいだ住すんで、住すみ慣なれて見みていますと、人ひとの心こころが劣おとっているとは思おもいません。（都みやこの人ひとは）総そうじて柔和にゅうわで優やさしい気持きもちがあるために、人ひとが（頼たのんで）言いうほどのことをきっぱりと断ことわりにくくて、万事ばんじにつけて遠慮えんりょなく言いい切きることがどうしてもできなくて、気弱きよわに承諾しょうだくしてしまう。嘘うそをつこうとは思おもわなくても、経済けいざい力りょくがなくて思おもうようにならない人ひとばかりいるので、自然しぜんと願ねがっていたとおりにならないことも多おおいのだろう。東国とうごくの人ひとは、私わたしと同郷どうきょうだが、本当ほんとうのところは心こころの優やさしさがなく、人情にんじょうが乏とぼしく、まったく無愛想ぶあいそうな人々ひとびとなので、（何なにか頼たのまれても）初はじめからいやだと言いって終おわってしまう。（ただし、）富とみ栄さかえていて財ざい力りょくがあるので、人ひとには頼たよりにされるのだよ」と説明せつめいなさいましたのは、この上人しょうにんは発音はつおんがちょっとなまっていて、荒あらっぽくて、仏ほとけの教おしえの詳細しょうさいな理論りろんはあまりわかっていないのではないかと思おもっていましたが、この一言ひとことの後あとは、心こころがひかれるようになって、（世よの中なかに）僧侶そうりょが大勢おおぜいいる中なかでも（この上人しょうにんが）寺てらをも管理かんりなさっているのは、このように柔和にゅうわなところがあって、そのおかげもあるのだろうと思おもわれましたことです。