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  • 二十日はつかつき土佐日記とさにっき

    二十日はつかつきでにけり。やまもなくて、うみなかよりぞる。

    うなるをてや、むかし阿倍あべの仲麻呂なかまろといけるひとは、唐土もろこしわたりて、かえかへけるときに、ふねるべきところにて、かの国人くにひとむまのはなむけし、わかしみて、かしこの漢詩からうたつくりなどしける。かずやありけむ、二十日はつかつきるまでぞありける。そのつきうみよりぞでける。これをてぞ、仲麻呂なかまろぬし、「わがくににかかるうたをなむ、神代かみよよりかみび、いま上中下かみなかしもひとも、うにわかしみ、よろこびもあり、かなしびもあるときにはむ」とて、めりけるうた

    青海原あおうなばらあをうなばらふりさけみれば春日かすがなる三笠みかさやまでしつきかも

    とぞめりける。かの国人くにひとるまじくおもえたれども、ことこころを、男文字おとこもじをとこもじさまだして、ここの言葉ことばつたたるひとらせければ、こころをやたりけむ、 いとおもほかになむでける。唐土もろこしとこのくにとは、ことことなるものなれど、つきかげおなじことなるべければ、ひとこころおなじことにやあらむ。

    さて、いま、そのかみをおもやりて、あるひとめるうた

    みやこにてやまつきなれどなみよりでてなみにこそ

    本文ほんぶん説明せつめい

    1: 二十日はつかつきけり
    • はつかのよのつき二十日の夜の月連語旧暦きゅうれき二十日はつかつき二十日はつかづき22ごろる。
    • 出づる。あらわれる。
    • 助動完了かんりょう…た。…てしまった。…てしまう。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    二十日はつかよるつきてしまった。 現代語訳を表示
    2: やまもなくて、うみなかより
    • やまのは山の端やまそらせっする部分ぶぶん
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • より格助空間的くうかんてき起点きてん…から。
    • 係助強意きょうい
    • いでく出で来る。
    やま稜線りょうせんもなくて、うみなかからる。 現代語訳を表示
    3: うなる このような情景じょうけいてだろうか、 現代語訳を表示 4: むかし阿倍あべの仲麻呂なかまろといけるひとは、唐土もろこしわたりて、かえかへけるとき
    • あべのなかまろ阿部仲麻呂701-770。奈良時代ならじだい文学者ぶんがくしゃとう留学りゅうがくし、玄宗げんそう皇帝こうていちょうとう一生いっしょうえた。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    • もろこし唐土中国ちゅうごく本文ほんぶんではとう(618-907)をす。
    • 格助到達点とうたつてん…に。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    • 格助とき…に。…ときに。
    むかし阿部あべの仲麻呂なかまろといったひとは、とうくにわたって、かえってときに、 現代語訳を表示
    5: ふねべきところにてかのくにひとむまのはなむけ
    • 格助対象たいしょう…に。
    • べし助動予定よてい予定よていだ。
    • にて格助場所ばしょ…で。…において。
    • かの彼の連語あの。その。
    • くにひと国人くにひと
    • むまのはなむけ旅立たびだひとへのおくもの送別会そうべつかいうま鼻向はなむけ」から言葉ことば旅立たびだひとうまはなさきけて、たび安全あんぜんいのったことによる。
    • する。
    ふね予定よてい場所ばしょで、そのくにひとが、送別そうべつ宴会えんかいひらき、 現代語訳を表示
    6: わかしみて、かしこ漢詩からうたつくりなどける
    • かしこ彼処あそこ。そこ。
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • からうたつくり漢詩作りかんつくること。
    • する。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    わかれをしんで、あちらの漢詩かんしづくりなどをした。 現代語訳を表示
    7: ありけむ二十日はつかつきまでありける
    • あく飽く満足まんぞくする。十分じゅうぶんだとかんじる。
    • 助動打消うちけし…ない。
    • 係助疑問ぎもん…か。…だろうか。
    • 〜あり補動~である。~状態じょうたいである。
    • けむ(けん)助動過去かこ原因げんいん推量すいりょう…たのだろう。
    • はつかのよのつき二十日の夜の月連語旧暦きゅうれき二十日はつかつき二十日はつかづき22ごろる。
    • 出づる。あらわれる。
    • 係助強意きょうい
    • ありある。いる。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    名残惜なごりおしかったのだろうか、二十日はつかよるつきるまで宴会えんかいつづいた。 現代語訳を表示
    8: そのつきうみよりける
    • より格助空間的くうかんてき起点きてん…から。
    • 係助強意きょうい
    • 出づる。あらわれる。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    そのつきうみからた。 現代語訳を表示
    9: これ仲麻呂なかまろぬし
    • 格助対象たいしょう…を。
    • みる見るる。
    • 係助強意きょうい
    • なかまろ仲麻呂安倍あべの仲麻呂なかまろ。701-770。奈良時代ならじだい文学者ぶんがくしゃとう留学りゅうがくし、玄宗げんそう皇帝こうていちょうとう一生いっしょうえた。
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の
    • ぬし。…さまひと尊称そんしょう
    これをて、仲麻呂なかまろさまは、 現代語訳を表示
    10: くにかかるうたなむ神代かみよよりかみ
    • 我・吾わたし
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の
    • 格助場所ばしょ…に。…で。
    • かかり斯かりこのようだ。
    • 格助対象たいしょう…を。
    • なむ(なん)係助強意きょうい
    • かみよ神代神々かみがみ時代じだい
    • より格助時間的じかんてき起点きてん…から。
    • よむ詠むうたつくる。えいずる。ん」は「み」の「み」が撥音便はつおんびんして「ん」となったもの。
    • 〜たぶ〜給ぶ補動〜なさる。お〜になる。
    わたしくにではこのようなうたを、神々かみがみ時代じだいからかみもおみになり、 現代語訳を表示
    11: いま上中下かみなかしもひとも、うにわかしみ、よろこびもありかなしびもあるとき
    • うなり斯様なり形動このようだ。
    • ありある。いる。
    • かなしび悲しびかなしいこと。
    • ありある。いる。
    • 格助とき…に。…ときに。
    • よむ詠むうたつくる。えいずる。
    いま身分みぶんたかひとちゅうぐらいのひとひくひとも、このようにわかれをしんだり、またよろこびがあったり、かなしみがあったりするときにはみます」 現代語訳を表示
    12: とてけるうた
    • とて格助引用いんよう…とって。…とおもって。
    • よむ詠むうたつくる。えいずる。
    • 助動完了かんりょう…た。…てしまった。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    って、んだうたは、 現代語訳を表示
    13: 青海原あおうなばらあをうなばらふりさけみれば春日かすがなる三笠みかさやまつきかも
    • うなばら青海原あおひろうみ
    • ふりさけみる振り放け見るはるかとおくをる。
    • 接助偶然ぐうぜん条件じょうけん…と。…ところ。
    • かすが春日現在げんざい奈良市ならし一部いちぶ地名ちめい
    • なり助動所在しょざい…にある。…にいる。
    • みかさのやま三笠の山三笠山みかさやま現在げんざい奈良市ならしにあるやま
    • 格助場所ばしょ…に。…で。
    • 出づる。あらわれる。
    • 助動過去かこ…た。
    • かも終助詠嘆えいたん…だなあ。…ことだよ。
    あおひろうみをはるかに見渡みわたすと、春日かすがにある三笠山みかさやまからのぼったつきえることだよ 現代語訳を表示
    14: ける
    • 係助強意きょうい
    • よむ詠むうたつくる。えいずる。
    • 助動完了かんりょう…た。…てしまった。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    んだのだった。 現代語訳を表示
    15: かの国人くにひとまじくおもたれども
    • かの彼の連語あの。その。
    • くにひと国人くにひと
    • まじ助動不可能ふかのう…ことができない。…ことができないだろう。
    • おも思ほゆおもわれる。
    • たり助動完了かんりょう…た。…てしまった。
    • ども接助逆接ぎゃくせつ確定かくてい条件じょうけん…けれども。…のに。
    そのくにひとは、これをいても理解りかいすることができないだろうとおもわれたが、 現代語訳を表示
    16: ことこころ男文字おとこもじをとこもじさまだして、
    • こと言葉ことば
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • こころ意味いみ趣意しゅい
    • 格助対象たいしょう…を。
    • とこもじ男文字漢字かんじ
    • 格助手段しゅだん方法ほうほう…で。
    • さま様子ようす。ありさま。
    • 格助対象たいしょう…を。
    言葉ことば意味いみを、漢字かんじでその様子ようすあらわして、 現代語訳を表示
    17: ここ言葉ことばつたたるひとらせけれ
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • たり助動存続そんぞく…ている。…てある。
    • 格助対象たいしょう…に。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    • 接助偶然ぐうぜん条件じょうけん…と。…ところ。
    ここの言葉ことばつたえている通訳つうやくらせたところ、 現代語訳を表示
    18: こころたりけむ
    • こころ意味いみ趣意しゅい
    • 格助対象たいしょう…を。
    • 係助疑問ぎもん…か。…だろうか。
    • 〜う補動~ことができる。
    • たり助動完了かんりょう…た。…てしまった。
    • けむ(けん)助動過去かこ原因げんいん推量すいりょう…たのだろう。
    意味いみることができたのだろうか、 現代語訳を表示
    19: いとおもほかなむける
    • いととても。非常ひじょうに。ほんとうに。
    • おものほかに思ひの外に連語意外いがいに。予想よそうはんして。
    • なむ(なん)係助強意きょうい
    • めづ賞づ・愛づめる。賞賛しょうさんする。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    とても意外いがいなほどに賞賛しょうさんした。 現代語訳を表示
    20: 唐土もろこしとこのくにとは、ことことなるものなれ
    • もろこし唐土中国ちゅうごく本文ほんぶんではとう(618-907)をす。
    • こと言葉ことば
    • ことなり異なり形動ちがっている。
    • なり助動断定だんてい…だ。…である。
    • 接助逆接ぎゃくせつ確定かくてい条件じょうけん…けれども。…のに。
    とうくにとこのくにとは、言葉ことばちがっているが、 現代語訳を表示
    21: つきかげおなじことなるべけれ
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • かげひかり
    • なり助動断定だんてい…だ。…である。
    • べし助動当然とうぜん…はずだ。
    • 接助原因げんいん理由りゆう…ので。…から。
    つきひかりおなじことであるはずだから、 現代語訳を表示
    22: ひとこころおなじことあら
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • こころ気持きもち。感情かんじょう
    • なり助動断定だんてい…だ。…である。
    • 係助疑問ぎもん…か。…だろうか。
    • 〜あり補動~である。~状態じょうたいである。
    • む(ん)助動推量すいりょう…だろう。
    ひとこころおなじことなのだろうか。 現代語訳を表示
    23: さていまそのかみおもやりて、あるひとうた
    • さてさて。
    • そのかみ当時当時とうじ。そのころ。
    • 格助対象たいしょう…を。
    • おもやる思ひやるとおくのことをおもう。
    • ある或るある。物事ものごと漠然ばくぜんして言葉ことば
    • 格助主格しゅかく…が。
    • よむ詠むうたつくる。えいずる。
    • 助動完了かんりょう…た。…てしまった。
    さて、いま当時とうじのことをおもって、あるひとんだうたは、 現代語訳を表示
    24: みやこにてやまつきなれ
    • みやこ京都きょうと
    • にて格助場所ばしょ…で。…において。
    • やまのは山の端やまそらせっする部分ぶぶん
    • 格助場所ばしょ…に。…で。
    • みる見るる。
    • 助動過去かこ…た。
    • なり助動断定だんてい…だ。…である。
    • 接助逆接ぎゃくせつ確定かくてい条件じょうけん…けれども。…のに。
    みやこではやまうえつきだが、 現代語訳を表示
    25: なみよりなみこそ
    • より格助空間的くうかんてき起点きてん…から。
    • 出づる。あらわれる。
    • 格助到達点とうたつてん…に。
    • こそ係助強意きょうい…こそ。
    • いる入るはいる。かくれる。
    ここではなみからのぼってなみしずむことだよ 現代語訳を表示

    現代語訳げんだいごやく

    二十日はつかよるつきてしまった。やま稜線りょうせんもなくて、うみなかからる。

    このような情景じょうけいてだろうか、むかし安倍あべの仲麻呂なかまろといったひとは、とうくにわたって、かえってときに、ふね予定よてい場所ばしょで、そのくにひとが、送別そうべつ宴会えんかいひらき、わかれをしんで、あちらの漢詩かんしづくりなどをした。名残惜なごりおしかったのだろうか、二十日はつかよるつきるまで宴会えんかいつづいた。そのつきうみからた。これをて、仲麻呂なかまろさまは、「わたしくにではこのようなうたを、神々かみがみ時代じだいからかみもおみになり、いま身分みぶんたかひとちゅうぐらいのひとひくひとも、このようにわかれをしんだり、またよろこびがあったり、かなしみがあったりするときにはみます」とって、んだうたは、

    あおひろうみをはるかに見渡みわたすと、春日かすがにある三笠山みかさやまからのぼったつきえることだよ

    んだのだった。そのくにひとは、これをいても理解りかいすることができないだろうとおもわれたが、言葉ことば意味いみを、漢字かんじでその様子ようすあらわして、ここの言葉ことばつたえている通訳つうやくらせたところ、意味いみることができたのだろうか、とても意外いがいなほどに賞賛しょうさんした。とうくにとこのくにとは、言葉ことばちがっているが、つきひかりおなじことであるはずだから、ひとこころおなじことなのだろうか。

    さて、いま当時とうじのことをおもって、あるひとんだうたは、

    みやこではやまうえつきだが、ここではなみからのぼってなみしずむことだよ