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  • 一寸法師いっすんぼうし2:上京じょうきょう

    かくて、鳥羽とばにもきしかば、そこもとにてて、みやこのぼり、ここやかしことほどに、四条五条しじょうごじょうしでうごでう有様ありさまこころ言葉ことばにもおよばれず。さて、三条さんじょうさんでう宰相殿さいしょうどのさいしゃうどのもうまうひとのもとにりて、「ものもうまうさん」とければ、宰相殿さいしょうどのさいしゃうどのこしめし、おもしろきこえこゑき、えんはなでて、御覧ごらんずれどもひともなし。一寸法師いっすんぼうしいっすんぼふし、かくてひとにもころされんとて、ありつる足駄あしだしたにて、「ものもうまうさん」ともうまうせば、宰相殿さいしょうどのさいしゃうどの不思議ふしぎのことかな、ひとえずして、おもしろきこえこゑにてる、でてばやとおぼしめし、そこなる足駄あしだかんとされければ、足駄あしだしたより、「ひとませたまそ」ともうまうす。不思議ふしぎおもれば、一興いっきょうなるものにてありけり。宰相殿さいしょうどのさいしゃうどの御覧ごらんじて、「げにもおもしろきものなり」とて、御笑おんわらなされけり。

    朗読ろうどく

    本文ほんぶん説明せつめい

    1: かくて鳥羽とばしか
    • かくて斯くてこうして。
    • とば鳥羽現在げんざい京都市きょうとし伏見区ふしみく地名ちめい
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • 船着ふなつみなと
    • 格助到達点とうたつてん…に。
    • 助動過去かこ…た。
    • 接助原因げんいん理由りゆう…ので。…から。
    こうして、(一寸法師いっすんぼうしは)鳥羽とば船着ふなついたので、 現代語訳を表示
    2: そこもとてて、みやこのぼ、ここやかしこほど
    • そこもと其処許その場所ばしょ。そのあたり。
    • 格助場所ばしょ…に。…で。
    • みやこ都・京京都きょうと
    • 格助到達点とうたつてん…に。
    • のぼる上る地方ちほうからみやこく。
    • かしこ彼処あそこ。そこ。
    • みる見るる。
    • ほどに程に接助…と。…ところ。
    そこにふねてて、みやこのぼり、あちらこちらを見物けんぶつすると、 現代語訳を表示
    3: 四条五条しじょうごじょうしでうごでう有様ありさまこころ言葉ことばおよ
    • でふじょうでふじょう四条五条現在げんざい京都市きょうとし中京区なかぎょうくから下京区しもぎょうくにかけての一帯いったいみやこのなかでもとくににぎやかなところ
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • こころこころ精神せいしん
    • ことば言葉・詞言語げんご。ことば。
    • 格助手段しゅだん方法ほうほう…で。
    • 助動可能かのう…ことができる。
    • 助動打消うちけし…ない。
    四条しじょう五条ごじょう様子ようすは、想像そうぞうおよばず言葉ことばでもあらわせない(ほどすばらしい)。 現代語訳を表示
    4: さて三条さんじょうさんでう宰相殿さいしょうどのさいしゃうどのもうまうひともとりて、
    • さてそして。それで。
    • さんでふじょう三条現在げんざい京都市きょうとし中京区なかぎょうく一帯いったい貴族きぞく邸宅ていたくおおてられていた。
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • さいしうどの宰相殿宰相さいしょう参議さんぎという官職かんしょく中国風ちゅうごくふうかた参議さんぎ大納言だいなごん中納言ちゅうなごん要職ようしょく殿との敬称けいしょう
    • うす申すもうげる。
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • もと元・本・許居所いどころ近辺きんぺん
    • 格助場所ばしょ…に。…で。
    そして、三条さんじょう宰相さいしょう殿どのもうげるひとところって、 現代語訳を表示
    5: ものもうまう」とけれ
    • ものうす物申すものをもうげる。
    • む(ん)助動意志いし…う。…よう。…つもりだ。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    • 接助偶然ぐうぜん条件じょうけん…と。…ところ。
    「ごめんください」とったところ、 現代語訳を表示
    6: 宰相殿さいしょうどのさいしゃうどのこしめしおもしろきこえこゑき、
    • さいしうどの宰相殿宰相さいしょう参議さんぎという官職かんしょく中国風ちゅうごくふうかた参議さんぎ大納言だいなごん中納言ちゅうなごん要職ようしょく殿との敬称けいしょう
    • きこしめす聞こし召すきになる。
    • おもしろし面白しおもしろい。興味きょうみかんじる。
    宰相さいしょう殿どのはそれをおきになって、おもしろいこえだといて、 現代語訳を表示
    7: えんはなて、御覧ごらんどもひとなし
    • えん縁・椽いえ外側そとがわ細長ほそなが板敷いたじきの部分ぶぶん
    • はなはし。へり。
    • たちい立ち出づってそとる。
    • ごらんず御覧ずらんになる。
    • ども接助逆接ぎゃくせつ確定かくてい条件じょうけん…けれども。…のに。
    • なし無しない。存在そんざいしない。
    邸宅ていたくの)縁先えんさきてごらんになるがだれもいない。 現代語訳を表示
    8: 一寸法師いっすんぼうしいっすんぼふしかくてひところとて
    • いっすんぼ一寸法師この物語ものがたり主人公しゅじんこう身長しんちょう一寸いっすんやく3㎝)しかないので、このようにばれている。
    • かくて斯くてこうして。このままで。
    • 格助受身うけみ動作どうさしゅ…に。…によって。
    • 助動受身うけみ…れる
    • む(ん)助動推量すいりょう…だろう。
    • とて格助引用いんよう…とって。…とおもって。
    一寸法師いっすんぼうしは、こうして(いては)ひところされるだろうとおもって、 現代語訳を表示
    9: ありつる足駄あしだしたにて、「ものもうまう」ともうまう
    • あり在り・有りある。いる。
    • 助動完了かんりょう…た。…てしまった。…てしまう。
    • あしだ足駄下駄げた
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • にて格助場所ばしょ…で。…において。
    • ものうす物申すものをもうげる。
    • む(ん)助動意志いし…う。…よう。…つもりだ。
    • うす申すもうげる。
    • 接助偶然ぐうぜん条件じょうけん…と。…ところ。
    そこにあった足駄あしだしたで、「ごめんください」ともうげたところ、 現代語訳を表示
    10: 宰相殿さいしょうどのさいしゃうどの不思議ふしぎことかな
    • さいしうどの宰相殿宰相さいしょう参議さんぎという官職かんしょく中国風ちゅうごくふうかた参議さんぎ大納言だいなごん中納言ちゅうなごん要職ようしょく殿との敬称けいしょう
    • ふしぎなり不思議なり形動理解りかいできない。あやしい。
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • かな終助詠嘆えいたん…だなあ。…ことだよ。
    宰相さいしょう殿どのは、不思議ふしぎなことだなあ、 現代語訳を表示
    11: ひとしておもしろきこえこゑにてる、
    • みゆ見ゆえる
    • 助動打消うちけし…ない。
    • して接助状態じょうたい…で。…の状態じょうたいで。
    • おもしろし面白しおもしろい。興味きょうみかんじる。
    • にて格助手段しゅだん方法ほうほう…で。
    • よば呼ばはる大声おおごえぶ。
    ひと(の姿すがた)はえなくて、おもしろいこえさけんでいる、 現代語訳を表示
    12: ばやおぼしめし
    • いづ出づる。あらわれる。
    • みる見るる。
    • ばや終助意志いし…う。…よう。…つもりだ。
    • おぼしめす思し召すおもいになる。
    そとてみようとおおもいになり、 現代語訳を表示
    13: そこなる足駄あしだけれ
    • なり助動所在しょざい…にある。…にいる。
    • あしだ足駄下駄げた
    • む(ん)助動意志いし…う。…よう。…つもりだ。
    • めす召すしになる。
    • 助動尊敬そんけい…なさる。お…になる。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    • 接助偶然ぐうぜん条件じょうけん…と。…ところ。
    そこにある足駄あしだをはこうとしておしに(なりそうに)なったところ、 現代語訳を表示
    14: 足駄あしだしたより、「ひとたま」ともうまう
    • あしだ足駄下駄げた
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • より格助空間的くうかんてき起点きてん…から。
    • …な。…ないでくれ。
    • 助動尊敬そんけい…なさる。お…になる。
    • 〜たまふま(も)う〜給ふ補動〜なさる。お〜になる。
    • 終助禁止きんし…な。…ないでくれ。
    • うす申すもうげる。
    足駄あしだしたから、「ひとをおみにならないでください」ともうげる(こえがする)。 現代語訳を表示
    15: 不思議ふしぎおも一興いっきょうなるものありけり
    • ふしぎなり不思議なり形動理解りかいできない。あやしい。
    • みる見るる。
    • 接助偶然ぐうぜん条件じょうけん…と。…ところ。
    • いっきうなり一興なり形動風変ふうがわりでおもしろい。
    • なり助動断定だんてい…だ。…である。
    • 〜あり補動~である。~状態じょうたいである。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    不思議ふしぎおもってると、風変ふうがわりなもの(がいるの)であった。 現代語訳を表示
    16: 宰相殿さいしょうどのさいしゃうどの御覧ごらんて、
    • さいしうどの宰相殿宰相さいしょう参議さんぎという官職かんしょく中国風ちゅうごくふうかた参議さんぎ大納言だいなごん中納言ちゅうなごん要職ようしょく殿との敬称けいしょう
    • ごらんず御覧ずらんになる。
    宰相さいしょう殿どのはごらんになって、 現代語訳を表示
    17: げにおもしろきものなりとて御笑おんわらなさけり
    • げに実に本当ほんとうに。まったく。
    • おもしろし面白しおもしろい。興味きょうみかんじる。
    • なり助動断定だんてい…だ。…である。
    • とて格助引用いんよう…とって。…とおもって。
    • なす為すする。おこなう。
    • 助動尊敬そんけい…なさる。お…になる。
    • けり過去かこ…た。…たそうだ。
    「まことにおもしろいやつだ」とおっしゃって、おわらいになった。 現代語訳を表示

    現代語訳げんだいごやく

    こうして、(一寸法師いっすんぼうしは)鳥羽とば船着ふなついたので、そこにふねてて、みやこのぼり、あちらこちらを見物けんぶつすると、四条しじょう五条ごじょう様子ようすは、想像そうぞうおよばず言葉ことばでもあらわせない(ほどすばらしい)。そして、三条さんじょう宰相さいしょう殿どのもうげるひとところって、「ごめんください」とったところ、宰相さいしょう殿どのはそれをおきになって、おもしろいこえだといて、(邸宅ていたくの)縁先えんさきてごらんになるがだれもいない。一寸法師いっすんぼうしは、こうして(いては)ひところされるだろうとおもって、そこにあった足駄あしだしたで、「ごめんください」ともうげたところ、宰相さいしょう殿どのは、不思議ふしぎなことだなあ、ひと(の姿すがた)はえなくて、おもしろいこえさけんでいる、そとてみようとおおもいになり、そこにある足駄あしだをはこうとしておしに(なりそうに)なったところ、足駄あしだしたから、「ひとをおみにならないでください」ともうげる(こえがする)。不思議ふしぎおもってると、風変ふうがわりなもの(がいるの)であった。宰相さいしょう殿どのはごらんになって、「まことにおもしろいやつだ」とおっしゃって、おわらいになった。