その後、金銀打ち出し、姫君ともに都へ上り、五条あたりへ宿をとり、十日ばかりありけるが、このこと隠れなければ、内裏に聞こしめされて、急ぎ一寸法師をぞ召されけり。すなはち参内つかまつり、大王御覧じて、「まことにいつくしき童にて侍る。いかさま、これは賤しからず」、先祖を尋ね給ふ。
おほぢは、堀河の中納言と申す人の子なり。人の讒言により、流され人となり給ふ、田舎にてまうけし子なり。うばは、伏見の少将と申す人の子なり。幼き時より、父母におくれ給ひ、かやうに心も賤しからざれば、殿上へ召され、堀河の少将になし給ふこそめでたけれ。父母をも呼び参らせ、もてなしかしづき給ふこと、世の常にてはなかりけり。
さる程に、少将殿、中納言になり給ふ。心かたちよりはじめ*1、よろづ人にすぐれ給へば、御一門のおぼえ、いみじくおはしける*2。宰相殿聞こしめし、喜び給ひける。その後、若君三人出で来けり。めでたく栄え給ひけり。
住吉の御誓ひに、末繁盛に栄え給ふ。世のめでたきためし、これに過ぎたる*3ことはよもあらじとぞ申し侍りける。
*1: 心かたちよりはじめ:原文では「心かたちはじめより」となっているが、改めた。
*2: おはしける:原文では「おぼしける」となっているが、改めた。
*3: 過ぎたる:原文では「過ぎざる」となっているが、改めた。
その後、(打出の小槌で)金銀を打ち出し、姫君とともに都へ上り、五条あたりに宿を取って十日ほど滞在したが、このことが世間に広まったので、天皇がお聞きになって、急いで一寸法師を呼び寄せなさった。(一寸法師は)すぐに内裏に参上し、天皇はご覧になって、「本当に美しい少年だ。どう見てもこれは身分の低い者ではない」(とおっしゃって)先祖をお尋ねになる。
(一寸法師の父親である)おじいさんは、堀河の中納言と申し上げる人の子である。(堀河の中納言が)人の讒言によって流罪の人となられ、田舎で得た子である。(母親である)おばあさんは、伏見の少将と申し上げる人の子である。(おばあさんは)幼い時から、父母に先立たれなさって、(このように一寸法師は家柄がよく)品性も賤しくないので、(天皇が)殿上の間にお招きになり、堀河の少将になさったことこそはめでたいことである。(少将となった一寸法師が)父母をも呼び寄せ申し上げて、もてなし、大切に世話をなさることは、人並み以上であった。
そのうちに、少将殿は、中納言におなりになる。人柄、容姿をはじめとして、すべて人より優れていらっしゃるので、ご一族の信望も大変厚くていらっしゃった。宰相殿は(このことを)お聞きになり、お喜びになった。その後、お子様が三人生まれた。めでたくお栄えになった。
住吉の神のご誓言によって、子孫の代まで勢い盛んにお栄えになる。世の中のめでたい例(として)、これ以上のことはまさかないだろうと、(世の人々は)申しましたそうです。