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  • 一寸法師いっすんぼうし5:帰京ききょう

    そののち金銀こがねしろがねいだし、姫君ひめぎみともにみやこのぼり、五条ごじょうごでうあたりへ宿やどをとり、十日とおかとをかばかりありけるが、このことかくれなければ、内裏だいりこしめされて、いそ一寸法師いっすんぼうしいっすんぼふしをぞされけり。すな参内さんだいつかまつり、大王だいおうだいわう御覧ごらんじて、「まことにいつくしきわらわわらはにてはべる。いかさま、これはいやしからず」、先祖せんぞたずたづたま(も)たま

    ぢは、堀河ほりかわほりかは中納言ちゅうなごんもうまうひとなり。ひと讒言ざんげんにより、ながされびととなりたま(も)たま田舎いなかゐなかにてうけしなり。うばは、伏見ふしみ少将しょうしょうせうしゃうもうまうひとなり。おさなをさなときより、父母ちちははにおくれたま、かうにこころいやしからざれば、殿上てんじょうてんじゃうされ、堀河ほりかわほりかは少将しょうしょうせうしゃうになしたま(も)たまこそめでたけれ。父母ちちははをもまいまゐらせ、もてなしかしたま(も)たまこと、つねにてはなかりけり。

    さるほどに、少将殿しょうしょうどのせうしゃうどの中納言ちゅうなごんになりたま(も)たまこころかたちよりはじめ*1、よろひとにすぐれたまば、御一門ごいちもんのおぼえ、いみじくおしける*2宰相殿さいしょうどのさいしゃうどのこしめし、よろこたまける。そののち若君わかぎみ三人さんにんけり。めでたくさかたまけり。

    住吉すみよし御誓おんちかに、末繁盛すえはんじょうすゑはんじゃうさかたま(も)たまのめでたきためし、これにぎたる*3ことはよもあらじとぞもうまうはべりける。

    *1: 心かたちよりはじめ:原文げんぶんでは「心かたちはじめより」となっているが、あらためた。

    *2: おはしける:原文げんぶんでは「おぼしける」となっているが、あらためた。

    *3: ぎたる:原文げんぶんでは「ぎざる」となっているが、あらためた。

    本文ほんぶん説明せつめい

    1: そののち金銀こがねしろがねいだし、姫君ひめぎみともにみやこのぼ五条ごじょうごでうあたりへ宿やどとり、十日とおかとをかばかりありける
    • ひめぎみ姫君ひめ貴人きじんむすめきみ敬称けいしょう
    • みやこ都・京京都きょうと
    • のぼる上る地方ちほうからみやこく。
    • 格助対象たいしょう…を。
    • ばかり副助程度ていど…ぐらい。…ほど。
    • あり在り・有りある。いる。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    • 接助偶然ぐうぜん条件じょうけん…が。…と。…ところ。
    その、(打出うちで小槌こづちで)金銀きんぎんし、姫君ひめぎみとともにみやこのぼり、五条ごじょうあたりに宿やどって十日とおかほど滞在たいざいしたが、 現代語訳を表示
    2: このことかくれなけれ内裏だいりこしめさて、
    • かくれなし隠れなしひろれわたっている。
    • 接助原因げんいん理由りゆう…ので。…から。
    • だいり内裏天皇てんのう主上しゅじょう本来ほんらい天皇てんのう宮殿きゅうでん言葉ことば
    • 格助敬意けいい…におかれて。
    • きこしめす聞こし召すきになる。
    • 助動尊敬そんけい…なさる。お…になる。
    このことが世間せけんひろまったので、天皇てんのうがおきになって、 現代語訳を表示
    3: いそ一寸法師いっすんぼうしいっすんぼふしけり
    • いっすんぼ一寸法師この物語ものがたり主人公しゅじんこう身長しんちょう一寸いっすんやく3㎝)しかなかったので、このようにばれている。
    • 格助対象たいしょう…を。
    • 係助強意きょうい
    • めす召すせなさる。おまねきになる。
    • 助動尊敬そんけい…なさる。お…になる。
    • けり助動過去かこ…た。
    いそいで一寸法師いっすんぼうしせなさった。 現代語訳を表示
    4: すな参内さんだいつかまつり大王だいおうだいわう御覧ごらんて、
    • すな即ち・則ちすぐに。即座そくざに。
    • さんだい参内内裏だいり参上さんじょうすること。内裏だいり天皇てんのう宮殿きゅうでん
    • 〜つかまつる〜仕まつる補動もうげる。
    • だい大王天皇てんのう主上しゅじょう
    • ごらんず御覧ずらんになる。
    一寸法師いっすんぼうしは)すぐに内裏だいり参上さんじょうし、天皇てんのうはごらんになって、 現代語訳を表示
    5: 「まことにいつくしきわらわわらははべいかさま、これはいやしから」、先祖せんぞたずたづたま(も)たま
    • いつくし美しととのっていてうつくしい。
    • わら元服げんぷく以前いぜん子供こどもこの時点じてん一寸法師いっすんぼうし元服げんぷくしていなかったのでこのようにんだとかんがえられる。
    • なり助動断定だんてい…だ。…である。
    • 〜はべり〜侍り補動〜です。〜ます。
    • いかさま如何様きっと。どうても。
    • いやし賤し・卑し身分みぶんひくい。
    • 助動打消うちけし…ない。
    • せんぞ先祖家系かけい先代せんだい以前いぜんくなった人々ひとびと
    • 尋ぬ・訪ぬさがもとめる。究明きゅうめいする。
    • 〜たまふま(も)う〜給ふ補動~なさる。お~になる。
    本当ほんとううつくしい少年しょうねんだ。どうてもこれは身分みぶんひくものではない」(とおっしゃって)先祖せんぞをおたずねになる。 現代語訳を表示
    6: は、堀河ほりかわほりかは中納言ちゅうなごんもうまうひとなり
    • 祖父年老としおいた男性だんせい。おじいさん。
    • ほりかのちゅうなごん堀河の中納言人名じんめい中納言ちゅうなごん太政官だじょうかん次官じかんで、大臣だいじん大納言だいなごん要職ようしょく
    • うす申すもうげる。
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • なり助動断定だんてい…だ。…である。
    一寸法師いっすんぼうし父親ちちおやである)おじいさんは、堀河ほりかわ中納言ちゅうなごんもうげるひとである。 現代語訳を表示
    7: ひと讒言ざんげんより、ながされびとなりたま(も)たま田舎いなかゐなかうけなり
    • ざんげん讒言事実じじつげてひとわるうこと。中傷ちゅうしょう
    • 格助動作どうさどころ…に。
    • よる依る・因るもとづく。起因きいんする。
    • ながされびと流され人流罪るざいによって地方ちほう追放ついほうされたひと
    • なる成る変化へんかする。なる。
    • 〜たまふま(も)う〜給ふ補動~なさる。お~になる。
    • ゐなか田舎みやこからはなれた地方ちほう
    • にて格助場所ばしょ…で。…において。
    • 助動過去かこ…た。
    • なり助動断定だんてい…だ。…である。
    堀河ほりかわ中納言ちゅうなごんが)ひと讒言ざんげんによって流罪るざいひととなられ、田舎いなかである。 現代語訳を表示
    8: うばは、伏見ふしみ少将しょうしょうせうしゃうもうまうひとなり
    • うば祖母・姥年老としおいた女性じょせい。おばあさん。
    • ふしみのしょうし伏見の少将人名じんめい少将しょうしょう近衛府このえふ次官じかん
    • うす申すもうげる。
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • なり助動断定だんてい…だ。…である。
    母親ははおやである)おばあさんは、伏見ふしみ少将しょうしょうもうげるひとである。 現代語訳を表示
    9: おさなをさなときより父母ちちははおくれたま
    • より格助時間的じかんてき起点きてん…から。
    • 格助対象たいしょう…に。
    • おくる遅る先立さきだたれる。さきなれる。
    • 〜たまふま(も)う〜給ふ補動~なさる。お~になる。
    (おばあさんは)おさなときから、父母ふぼ先立さきだたれなさって、 現代語訳を表示
    10: うにこころいやしからざれ殿上てんじょうてんじゃう
    • うなり斯様なり形動このようだ。
    • こころこころ精神せいしん
    • いやし賎し・卑し下品げひんである。粗野そやである。
    • 助動打消うちけし…ない。
    • 接助原因げんいん理由りゆう…ので。…から。
    • てんじ殿上天皇てんのう居所きょしょである清涼殿せいりょうでん殿上てんじょう昇殿しょうでんゆるされたもの殿上人てんじょうびと)がひかえているところ
    • めす召すせなさる。おまねきになる。
    • 助動尊敬そんけい…なさる。お…になる。
    (このように一寸法師いっすんぼうし家柄いえがらがよく)品性ひんせいいやしくないので、(天皇てんのうが)殿上てんじょうにおまねきになり、 現代語訳を表示
    11: 堀河ほりかわほりかは少将しょうしょうせうしゃうなしたま(も)たまこそめでたけれ。
    • ほりかしょうし堀河の少将一寸法師いっすんぼうしあたらしい少将しょうしょう近衛府このえふ次官じかん
    • 格助変化へんか結果けっか…に。
    • なす為す任命にんめいする。
    • 〜たまふま(も)う〜給ふ補動~なさる。お~になる。
    • こそ係助強意きょうい…こそ。
    • めでたし素晴すばらしい。よろこばしい。
    堀河ほりかわ少将しょうしょうになさったことこそはめでたいことである。 現代語訳を表示
    12: 父母ちちははまいまゐらせ、もてなしかしたま(も)たまこと、つねにてはなかりけり
    • 格助対象たいしょう…を。
    • 〜まらす〜参らす補動もうげる。お~する。
    • もてなす歓待かんたいする。
    • かし傅く大切たいせつ世話せわをする。
    • 〜たまふま(も)う〜給ふ補動~なさる。お~になる。
    • よのつねなり世の常なり形動世間並せけんなみだ。普通ふつうだ。
    • 〜なし補形~ない。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    少将しょうしょうとなった一寸法師いっすんぼうしが)父母ふぼをももうげて、もてなし、大切たいせつ世話せわをなさることは、人並ひとな以上いじょうであった。 現代語訳を表示
    13: さるほど少将殿しょうしょうどのせうしゃうどの中納言ちゅうなごんなりたま(も)たま
    • さるほどにさる程にそうしているうちに。やがて。
    • しょうしうどの少将殿堀河ほりかわ少将しょうしょう、すなわち一寸法師いっすんぼうし殿との敬称けいしょう
    • ちゅうなごん中納言太政官だじょうかん次官じかん大臣だいじん大納言だいなごん要職ようしょく
    • 格助変化へんか結果けっか…に。
    • なる成る変化へんかする。なる。
    • 〜たまふま(も)う〜給ふ補動~なさる。お~になる。
    そのうちに、少将しょうしょう殿どのは、中納言ちゅうなごんにおなりになる。 現代語訳を表示
    14: こころかたちよりはじめ、よろひとすぐれたま
    • こころこころ精神せいしん
    • かたち形・容・貌かおかたち。容貌ようぼう
    • より格助空間的くうかんてき起点きてん…から。
    • よろすべて。万事ばんじにつけて。
    • 格助比較ひかく基準きじゅん…より。
    • すぐる優るすぐれている。まさっている。
    • 〜たまふま(も)う〜給ふ補動~なさる。お~になる。
    • 接助原因げんいん理由りゆう…ので。…から。
    人柄ひとがら容姿ようしをはじめとして、すべてひとよりすぐれていらっしゃるので、 現代語訳を表示
    15: 御一門ごいちもんおぼえいみじくける
    • ごいちもん御一門御一家ごいっか一族いちぞく
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の
    • おぼえ覚え評判ひょうばん信望しんぼう
    • いみじ素晴すばらしい。とてもよい。
    • 〜お補動~ていらっしゃる。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    一族いちぞく信望しんぼう大変たいへんあつくていらっしゃった。 現代語訳を表示
    16: 宰相殿さいしょうどのさいしゃうどのこしめしよろこたまける
    • さいしうどの宰相殿以前いぜん一寸法師いっすんぼうし奉公ほうこうしていた人物じんぶつ
    • きこしめす聞こし召すきになる。
    • 〜たまふま(も)う〜給ふ補動~なさる。お~になる。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    宰相さいしょう殿どのは(このことを)おきになり、およろこびになった。 現代語訳を表示
    17: そののち若君わかぎみ三人さんにんけり
    • わかぎみ若君貴人きじん子供こどもたいする敬称けいしょう
    • いでく出で来る。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    その、お子様こさまが三にんまれた。 現代語訳を表示
    18: めでたくさかたまけり
    • めでたし素晴すばらしい。よろこばしい。
    • さかゆ栄ゆいきおいがさかんになる。さかえる。
    • 〜たまふま(も)う〜給ふ補動〜なさる。お〜になる。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    めでたくおさかえになった。 現代語訳を表示
    19: 住吉すみよし御誓おんちか末繁盛すえはんじょうすゑはんじゃうさかたま(も)たま
    • すみよし住吉住吉神社すみよしじんじゃ住吉すみよしかみは、うみ守護神しゅごしん和歌わかかみさずけのかみとしてられる。一寸法師いっすんぼうしは、子供こどものいないうばが住吉すみよしかみいのってさずけられた。
    • ちか誓ひ誓約せいやく約束やくそく
    • 格助原因げんいん理由りゆう…によって。
    • はんじ末繁盛子孫しそんだいまでさかえること。
    • 格助状態じょうたい…に。…の状態じょうたいで。
    • さかゆ栄ゆいきおいがさかんになる。さかえる。
    • 〜たまふま(も)う〜給ふ補動~なさる。お~になる。
    住吉すみよしかみのご誓言せいごんによって、子孫しそんだいまでいきおさかんにおさかえになる。 現代語訳を表示
    20: めでたきためし
    • 世・代世間せけんなか
    • 格助連体れんたい修飾しゅうしょくかく…の。
    • めでたし素晴すばらしい。よろこばしい。
    • ためし前例ぜんれい実例じつれい
    なかのめでたいれい(として)、 現代語訳を表示
    21: これたることはよもあらもうまうはべける
    • 格助比較ひかく基準きじゅん…より。
    • たり助動存続そんぞく…ている。…てある。
    • よもまさか。けっして。
    • ありある。いる。
    • 助動打消うちけし推量すいりょう…ないだろう。…まい。
    • 係助強意きょうい
    • うす申すもうします。
    • 〜はべり〜侍り補動~です。~ます。
    • けり助動過去かこ…た。…たそうだ。
    これ以上いじょうのことはまさかないだろうと、(人々ひとびとは)もうしましたそうです。 現代語訳を表示

    現代語訳げんだいごやく

    その、(打出うちで小槌こづちで)金銀きんぎんし、姫君ひめぎみとともにみやこのぼり、五条ごじょうあたりに宿やどって十日とおかほど滞在たいざいしたが、このことが世間せけんひろまったので、天皇てんのうがおきになって、いそいで一寸法師いっすんぼうしせなさった。(一寸法師いっすんぼうしは)すぐに内裏だいり参上さんじょうし、天皇てんのうはごらんになって、「本当ほんとううつくしい少年しょうねんだ。どうてもこれは身分みぶんひくものではない」(とおっしゃって)先祖せんぞをおたずねになる。

    一寸法師いっすんぼうし父親ちちおやである)おじいさんは、堀河ほりかわ中納言ちゅうなごんもうげるひとである。(堀河ほりかわ中納言ちゅうなごんが)ひと讒言ざんげんによって流罪るざいひととなられ、田舎いなかである。(母親ははおやである)おばあさんは、伏見ふしみ少将しょうしょうもうげるひとである。(おばあさんは)おさなときから、父母ふぼ先立さきだたれなさって、(このように一寸法師いっすんぼうし家柄いえがらがよく)品性ひんせいいやしくないので、(天皇てんのうが)殿上てんじょうにおまねきになり、堀河ほりかわ少将しょうしょうになさったことこそはめでたいことである。(少将しょうしょうとなった一寸法師いっすんぼうしが)父母ふぼをももうげて、もてなし、大切たいせつ世話せわをなさることは、人並ひとな以上いじょうであった。

    そのうちに、少将しょうしょう殿どのは、中納言ちゅうなごんにおなりになる。人柄ひとがら容姿ようしをはじめとして、すべてひとよりすぐれていらっしゃるので、ご一族いちぞく信望しんぼう大変たいへんあつくていらっしゃった。宰相さいしょう殿どのは(このことを)おきになり、およろこびになった。その、お子様こさまが三にんまれた。めでたくおさかえになった。

    住吉すみよしかみのご誓言せいごんによって、子孫しそんだいまでいきおさかんにおさかえになる。なかのめでたいれい(として)、これ以上いじょうのことはまさかないだろうと、(人々ひとびとは)もうしましたそうです。